dm-mnbの日記

このブログでは、教育関係のことなどを中心に、調べたことや考えたことなどを書いていこうと思います。

東京都教員採用試験論作文の課題背景その1 テーマB

前の記事に引き続いて、本エントリでは課題設定の背景を考えてみたいと思います。

まずは、内容がほとんどブレていないテーマBを取り上げます。
テーマAについては、また別のエントリにまとめます。

テーマBで問われている内容からキーワードだけ取り出すと、

1.思いやりの心、自他の生命の尊重、他者への理解・信頼

2.基本的ルールを守る、規範意識を持つ

3.自尊感情を高める、自信を持たせる

4.社会活動への参画・貢献、人間関係の構築

5.夢、目標を持たせる

などになります。

ここから逆に、このような問題意識を持っているのだと考えると、

「思いやりの心がない」「ルールを守れない」「自信がない」「社会活動に消極的で」「夢・目標がない」

子ども像、が浮かび上がります。
これは、本当なのでしょうか?

本題に入る前に、参考にした資料をまとめておきます。
まず、テーマの分析をして分かったのは、新学習指導要領の改定方針に沿った出題傾向であるということ。
そのため、改定当時の中教審の答申を参考にします。
また、実態の調査としては、毎年文部科学省が出している「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」が参考になります。
その他、国立教育政策研究所が出している調査結果も、興味深いです。

「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について」(H.20, 中教審・答申, 以下、[学習指導要領改善答申])
「平成24年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」について」(H.25,文部科学省, 以下、[問題行動調査])
国立教育政策研究所各種資料

これらを中心に、以下で各項目を検討します。
抜けている重要資料があれば、ご指摘ください。

○ 現状分析
それではまずは、現状の把握から。

1. 思いやりの心

これは、暴力行為やいじめの件数などに表れていると考えられます。

暴力行為の発生件数は、[問題行動調査]によると、高校生ではほぼ横ばいで推移しているようです。

 

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校内暴力が社会問題となったのは80年代の頃だったと記憶していますが、それ以来解決するべき重要な問題として考えられてきたのにも関わらず、件数が横ばいで推移しているということは、依然として解決困難な問題であり続けているということだと思います。
しかし、青年期の少年にとって衝動的に湧き上がるエネルギーを発散し、衝突させる壁としての「教師」の役割というのは大切だと思うし、暴力行為の全責任が加害生徒にあるものでもないと思います。
数字を見ても実態は全然分からないと思うし、やはり、自分で現場に出て対応してみないと何も分からないでしょう。

いじめの件数については、国立教育政策研究所の資料(いじめ追跡調査)がとても参考になります。
平成18年度に北海道、福岡といじめ自殺事件が相次いで問題となり、
いじめの定義が代わり、統計量の呼び名も「発生件数」から「認知件数」へと変わりました。
平成23年には大津市中2いじめ自殺事件が社会問題となり、それに伴って24年度のいじめの認知件数も急増しました。
これは大事なところで、文部科学省の調査では、「学校がどれだけ頑張って件数を調査したか」が結果に大きく反映されます。そのため、いじめが社会問題化した年とそうでない年で認知件数が大きくばらつくのです。
しかし、いじめ追跡調査によると、実態として、認知件数にピークが存在することは認められません。
さらに、「いじめはどの学校にも、どの教室にも、どの生徒にも起こりうる」という言葉の通り、加害者・被害者に全く関わらない生徒というのはほとんどいません。
いわゆる、「いじめっ子」「いじめられっ子」というステレオタイプは通用しないのです。
まずは、この現状をしっかり把握しておくことが大切です。


2. 規範意識

[学習指導要領改善答申]によると、小1プロブレムや学級崩壊などは、規範意識の欠如を表していると考えられています。
他にも、生活習慣の確立が不十分(「義務教育に関する意識調査」「児童生徒の食生活等実態調査(H.17,日本スポーツ振興センター)」「学校保健統計調査」)だという結果もあります。
百ます計算」などを提唱し、現在は大阪府の教育委員長を務める陰山英男さんも、本当に大切だと言っているのは「反復学習」ではなく、「早寝・早起き・朝ごはん」という基本的生活習慣の確立です。
学校での生活だけでなく、家庭での生活環境こそが大切だということです。
また、全国学力・学習状況調査でも、基本的な生活習慣と学力には相関あり、という結果が出ています。

他には、不登校のうち、「あそび・非行」がきっかけというのも、規範意識と関連するでしょう。
[問題行動調査]によると、不登校のきっかけのうち、「あそび・非行」の占める割合は13.6%です。
不登校には、いじめ、人間関係への不安、学力不振、病気、無気力など様々なきっかけがあるうちの13%ですから、ここもどうにかしなければならない問題点の1つだと言えます。

3. 自信がない
4. 社会活動に消極的
5. 夢、目標がない

4.5.については、ひきこもりやニートといった問題が実態を表しているでしょう。
ニートについては高校の指導範囲を超えていますが、高校生活が大きく影響していること間違いないでしょう。
ひきこもりを含む不登校について、[問題行動調査]によると、平成10年(1998年)までは増加傾向にありますが、それ以降は増減しつつ大体同じ水準で高止まりしています。
平成24年度は、小・中学生については減少し、高校生については増加しています。

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<高校生>

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グラフを見比べてみると、中学生のグラフの形が、高校生に伝搬しているように見えます。これが正しいとすると、今後高校生の不登校生との数は、少しずつ減っていくのではないかと思います。

また、実態調査の分析については、これまた国立教育政策研究所の資料(不登校・長期欠席を減らそうとしている教育委員会に役立つ施策に関するQ&A)が非常に参考になります。
不登校の問題は、スクールカウンセラーの配置不足などではありません。
本当に大変な問題なのは、不登校として数えられている生徒のうち、約半数は復帰するなり卒業するなりしているのにも関わらず、次年度にはまた同程度の不登校が発生していることです。
また、いじめの状況と同じように、不登校も誰にでも起きる可能性があります。
教育政策研究所の資料は、現状を把握するための視点を色々与えてくれます。


また、平成19年の「低年齢少年の生活と意識に関する調査結果」(内閣府)によると、中学生の悩みや心配を抱える生徒数は増加しており、そのトップ2が「勉強や進学のこと」「友達や仲間のこと」です。

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将来についてや、人間関係について悩みを抱える生徒が増えているということでしょう。
3.については、これが4や5の要因になっている、すなわち、自分に自信がないことが、漠然とした不安に表れていると考えられます。



○ 要因分析
要因といっても、ケースバイケースであって、特定できるようなものではないでしょう。
ここでは、[学数指導要領改善答申]から、背景要因の分析を紹介したいと思います。

大きく分けて、3つの要因があると考えられています。

(1) 社会全体、家庭・地域の変化
(2) 理念実現のための具体的な手立て(メソッド)の不十分
(3) 教師が子どもたちと向きあう時間の確保・環境整備の不十分

(1)では、核家族化や都市化が進んだことで、地域・家庭の教育力が低下したと考えられます。
特に、保護者自身ですら、「家庭でのしつけや教育が不十分である」(「低年齢少年の生活と意識に関する調査報告書」H.19内閣府)と考えている状況があります。
また、地域の連携が薄くなり、異年齢の子どもたちとの交流の場の喪失が起きたことや、自然体験の減少(「H.17年度青少年の自然体験等に関する実態報告」国立オリンピック記念青少年総合センター)も背景要因です。

そのため、「規範意識」や「他者や自然を思いやる心」が育ちにくくなっている、と考えられるでしょう。

社会変化としては。非正規雇用の増加や、大学全入時代の到来が挙げられています。そのため、将来への不安を感じたり、学校の学習と将来の関係の意義を見出だせなくなっているようです。
これが「社会への消極的な態度」「無気力、無関心」へと繋がり、不登校などの現象に結びついているのでしょうか。

(2)では、理念の共有、そもそも「生きる力」とは何か?なぜ必要か?の共通理解がなかったことが、まず背景的な問題として挙げられています。
「ゆとり」か「詰め込み」かの二項対立になってしまいがちですが、「生きる力」の目指したところはそれらの対立を生みません。
そのため、「調べ学習」「グループ学習」への理解が深まらず、「社会貢献」に繋がる教育にならなかったと考えられます。

また、社会・家庭の変化への対応が不十分であったことも挙げられます。
地域・家庭の教育力が低下する中、学校側も家庭や地域との新たな連携を模索する教育活動を展開させる必要があります。

と言われていますが、僕は実際に何をすればいいのか、よく分かっていません...

(3)では、将来や人間関係の不安を抱える子どもたちと向きあう時間の不足が問題となっています。
近年、提出すべき書類が増加し、教員の時間がどんどん失われていっているといわれています。
そのため、ICTを導入するなどして、業務の効率化、環境整備が必要だといわれています。

○ 感想

と、ここまで現状分析や背景要因と考えられることを書いて来ましたが、結局教員がやらなければならないこととは、「人格形成」という大目標の実現に対しての、不断の努力、アプローチなのではないのでしょうか。
問題現象に対して、場当たり的に対処する、というのではないような気がします。
それは社会背景が変わっても、同じなのではないでしょうか。

ただし、「現状の把握・認識」というのはとても大切だと思います。
しっかり勉強して、心の問題だけでなく、発達障害の問題、伝える技術の問題などにも意識が向くようにしていなければなりません。

 

もう1つ、どうしても考えておきたいことは、平成20年の時点では教員の労働環境の整備が必要だといわれていることに対して、どのような対処がなされたのか?ということです。

第3次東京都教育ビジョンでは、このことに関する施策が、ICTだけに集約されているように見えます。

第2次ビジョンの結果のまとめや評価、反省は行われたのでしょうか?2次の期間が終わったから3次を発足しただけなのでしょうか?そのときに深い調査、思索は行われたのでしょうか?

教職員の環境整備について、どうしても軽視されているような印象を受けます。

問題として挙げられた点は、解決されたのか、優先順位を下げたのか、そういった見解を示さないで次の施策に移るのは、無責任ではないでしょうか。

最後に、解決策については、とにかく「未然防止」と「初期対応(早期発見・早期対応)」だと言われています。
これらについても、教育政策研究所が出しているリーフレットがとても良いと思うので、そちらを見てみてください。
なぜ「未然防止」かというと、やはり、「誰が被害者になるかわからない」ということに尽きます。

解決策については、また別エントリでまとめ、自分の考えを深めていきたいと思います。